TBS向井政生アナが突き詰めた声 がん闘病の裏で後輩たちの手本となった“プロ魂”
 TBSアナウンサーの向井政生さんが21日午前、がんのため都内の病院で死去した。59歳。向井さんは2019年11月に顎下腺(がくかせん)がんと診断され、翌20年8月にラジオ番組出演にあたり、ORICON NEWSのインタビューに対し「実は去年の11月に顎下腺がんの手術をしました」と明かしていた。

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当時、向井さんは放射線治療などを受け、TBSラジオ『日能研presents ラジオドラマ「青空」』(2020年8月16日放送)の収録に参加した。脚本家の樫田正剛氏が反戦の思いを込めて作り上げた作品で、戦後75年を迎えた同年夏にラジオドラマ化され、TBSアナたちが力をあわせて物語をつむいだ。

出演者に順に話を聞くなか、語り部を担当した向井さんは「オファーを受けた時の心境」に触れ、その背景にがん闘病があったと告白。「なんとかして全盛期の状態に戻したい」と意欲を見せていた。また、22年末で同局を退社した国山ハセン氏の名を挙げるなど、後輩アナの手本であったことが、ありありとうかがえる貴重なインタビューとなった。

以下、インタビューを再掲する(2020年8月16日掲載 ※日時・肩書・年齢などは当時)

■ラジオドラマ『青空』インタビューVol.4 向井政生、がん闘病で感じた葛藤と戦争を語り継ぐ使命「不戦の誓いには…」

TBSラジオでは、16日に特別番組『日能研presents ラジオドラマ「青空」』を放送(後8:00~9:00)。脚本家の樫田正剛氏が反戦の思いを込めて作り上げた作品で、これまでに、そうそうたるメンバーで繰り返し上演されてきたが、戦後75年を迎える2020年の夏、ラジオドラマとしての放送が決定した。

物語を紡ぐのはTBSアナウンサーたちで、向井政生アナ(語り部ほか)、宇内梨沙アナ(主人公の少年・大和役)、高畑百合子アナ(犬・麦役)、国山ハセンアナ(猫・小太郎役)が出演。ORICON NEWSでは、けいこ中のアナウンサーたちと樫田氏へのインタビューを敢行。番組や朗読の魅力に迫っていく。

4回目は、語り部などを担当する向井政生アナ(57)へのインタビューを紹介する。

――オファーを受けた時の心境について

えっと、ちょっと長くなってもいいですか? シビアな話で、アナウンスセンターの人間と会社のごく一部にしか伝えていないのですが。実は去年の11月に顎下腺(がくかせん)がんの手術をしました。今年の1月から放射線治療をやりまして、ほほから顎(あご)の辺りにかけて放射線を当てたんです。その結果、副作用で舌の動きが悪くなったもので、自分の中で滑舌がすごく悪くなったという感覚があって。みんなは「いや、変わらないんじゃないですか」と言ってくれるんだけど、自分の中では「(以前の状態だったら)こんなに音のキレが悪くないはずだ」というのと、高い音域が出なくなったので、今までの完全なイメージどおりの声が出せていない状況なんです。

そんな中で、このお話をいただきまして、自分としてはなんとかして全盛期の状態に戻したいという気持ちがありました。昨年、国山ハセンくんが出演した舞台版の『青空』も事前に拝見して、いい話だなと思って感動したし、確かにやってみたい、やりがいのある作品だなと思いました。何とか自分の声の状態を、なるべくピークの状態に近づけようと心がけて、爪痕を残すことができればと思っております。

――今回の役どころについて

メインナレーション、お父さん、松原さんという若い脱走兵というのが主な役どころで、演じ分けをしなければいけません。僕はもともと、声色を使い分けるのは得意としている方なのですが、やってみて、お父さんの声をどういう風にしようかなと試行錯誤していて、きょうのけいこでやっと見えてきました。お父さんの声とナレーションが次第に同じような声になってきて「あれーこれはまずいな(笑)」と思っていたのですが、ようやくつかめてきた感じですね。

――今回は、それぞれ世代が異なる出演者が集まりました。

今までも朗読のイベント自体はやっていたのですが、堀井美香アナウンサーがプロデュースする朗読会『A’LOUNGE』には初参加となります。国山ハセン、高畑百合子、宇内梨沙とは、いずれも朗読の共演は、おそらく初めてになると思います。

――後輩のみなさんも、向井さんから多くのことを学ばれていると思いますが。

そうなのかなー、本当はこんなもんじゃないんですけどね(笑)。自分はすごくもどかしいんですよ。10出せるところを8くらいしか出せないっていう状態なので。堀井から話をもらった時に「本当にやっていいの? ピークの時のしゃべりができないかもしれないよ」と伝えたのですが、堀井からは「いや、大丈夫ですよ」と言ってもらって、それで受けることにしました。だから、自分ではできているかどうかというのが半信半疑という部分です。

――戦争を知らない世代も増えている中、こうした形で伝えることも大事なことだと思います。

去年、東京新聞の記事で、終戦記念日くらいの頃に連載があって、今回の作品のテーマになっている動物の供出命令を出された方の手記が載っていましたのを読んでいたので、昨年の舞台を拝見した時、リアルなこととして感じました。そうした、戦争の時のことを伝えることは、とても大事なことだと思います。個人的な話になりますが、10年くらい前に、よく飲みに行っていたお店で知り合った田中さんという70代の方がいらっしゃったんです。特攻隊の生き残りの方なのですが、すごく頭脳明晰で。その方と仲良くなって、戦争の話を聞き出したんですね。その中で、霞ヶ浦で特攻隊の訓練をされていた時のお話で、訓練中に着陸する時に車輪が出なくなって、一か八か胴体着陸をされたそうなんです。

その話を伺って「助かって、よかったですね」と言ったら、田中さんが「大事な機体に傷をつけたから、上官にボコボコに殴られんだよ」とおっしゃって。田中さんは、その1年後に亡くなってしまったのですが、その時に「もっとお話を聞いておきたかった」ということと「生きている間に聞けて良かった」という気持ちになったんです。戦争の体験はもっと聞いておくべきだし、語り継いでいく義務はあると、その時に感じたので、今回こういったことができるのはとても光栄なことですね。

――番組を楽しみにしているリスナーへのメッセージ

戦時中に動物の供出命令があったということは、一般にはそれほど広く知られてないと思います。でも、それだけひどい世の中だったし、それが当たり前だと思い込まされていた。今だったら客観的に「そんなひどいこと!」って言えますが、それが言えないような時代だったんですね。そんな風に、おかしなことを「おかしい」って言えないような世の中に戻したらいけない。不戦の誓いには、そういった意味も込められているんだよということを知っていただけたらうれしいですね。

向井政生アナ(C)ORICON NewS inc.

(出典 news.nicovideo.jp)

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