日本の激辛は四川省からすれば「小辛」レベル!ヤンチャン 中国大陸大全
※本稿は、ヤンチャン『33地域の暮らしと文化が丸わかり! 中国大陸大全』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
■「四川省=4つの川」ではない
四川省は中国西南部に位置していて、人口やGDPは比較的上位です。わたしの出身地なので、小さい頃から「4つの川ってどの川のことだろう?」と疑問に思っていたのですが、四川省という名前は、川とは関係ないです。四川省出身の人でもほとんど知らないことですが、宋の時代に4つの行政区に分けられていたことが名前の由来になっています。
いまは「川西(せんせい)高原」と「四川盆地」の2地域に分けられる場合が多く、川西高原の西側はチベット高原に属します。
四川省は『三国志演義』でいえば蜀で、略称も「蜀」か「川」。省都は、蜀の都でもあった成都です。
『三国志演義』のイメージも関係して、山の多い田舎と思われがちですが、人が住んでいるところは、ほぼ盆地で、山はなく、都会化が進んでいます。
■2000年以上前の灌漑施設が今も現役
古くから四川盆地は“天府の国”と呼ばれていました。外敵からの攻撃を防ぎやすく、作物を育てやすい肥えた土地だからです。『三国志演義』においても「守るに易く攻めるに難しい国」と言われていました。
四川盆地を天府の国に変えたのは、およそ2200年前に作られた都江堰(とこうえん)という水利・灌漑施設です。日本の人にはピンとこなくても、中国では超有名! この都江堰は、改良や補修を加えながら今現在も機能しているのです。もともと水害が多い地域だったのですが、都江堰がつくられたからこそ、劉備はここに国を築こうという気になったのだと思います。都江堰がなければ現在のように四川省が豊かな地域にはなれなかったはずです。
“世界水利文化の開祖”とも呼ばれ、世界遺産にも登録されています。都江堰を囲むように広大な自然公園がつくられていて、人気の観光名所になっています。
■日本の激辛は四川省からすれば「小辛」レベル
四川省といえば、四川料理、激辛料理のイメージが強いと思います。
激辛度は本当に高くて、日本の激辛とはレベルが違います。日本にいると、わたしも辛いものが得意になったと勘違いしそうですが、日本の激辛は四川省の小辛くらいの感覚です。
日本でよく知られている麻婆豆腐や坦々麺、あまり辛いわけではない回鍋肉や青椒肉絲などが四川料理です。
四川料理を代表するのが麻婆豆腐のようにも思われがちですが、麻婆豆腐は四川省では家庭料理。家で作って食べるのが普通で、レストランで頼むことはあまりない料理です。
四川料理で唐辛子を使うようになった歴史は浅く、わずか200年くらいです。
それ以前から料理によく使っていたのが特産品の花山椒で、こちらは3000年ほどの歴史があります。
湖南料理や貴州料理なども激辛で知られますが、四川料理ならではの特徴が花山椒のしびれる辛さです。この特徴が「麻辣(マーラー)」と呼ばれます。
なぜ四川人が辛いものを好むかといえば、四川盆地は暑くて曇りの日が多いので、体の中に湿気がたまりやすいから。
東洋医学では、湿気は体の不調を引き起こす原因のひとつとされています。辛いものを食べて汗をかけば、湿気(水分)を発散できます。実際にそれで体調が良くなると感じられるので、辛いものをよく食べます。
■たいていのマンションに麻雀ルームがある
四川人は遊ぶのが好きで、“中国一、働く意欲のない省”と言われています。
「少不入川、老不出蜀(若い人間は四川に来るな、老いたる人は出るな)」ということわざがあるくらいです。若い人には刺激がなさすぎますが、年を取ったあと、これほどのんびりできるところはないという意味です。
それも大げさな表現とはいえません。四川人の休日は、麻雀をやって、火鍋を食べて、カラオケでワイワイして、深夜の屋台料理を食べるのが普通です。
麻雀がとにかく大好きで、大抵のマンションには麻雀ルームがあるほどです。
四川省では「麻雀ができないと友達ができない」という言い方もされますが、うちの親世代あたりは実際にそうだったようです。
旅行先でも、観光地を回ってご飯を食べたら、午後から麻雀をしています。
男性だけでなく、女性のほうが好きな人が多いくらいかもしれません。うちの母親も重度の愛好者で、一時期はほぼ毎日、麻雀をしていました。わたしも麻雀はできますが、そこまで好きではないですね。
中国では地域によってルールが異なっていることが多く、四川省では萬子(マンズ)、筒子(ピンズ)、索子(ソーズ)の3種類しか牌を使わず、字牌などを入れないやり方が一般的です。その分、ルールが簡単になるので、すぐに覚えられます。
■方言は“中国版関西弁”のような感じ
四川省には「茶館文化」があります。
「茶館是个小成都、成都是个大茶館(茶館は縮小された成都であり、成都は拡大された茶館である)」という言い方があるほどです。茶館の数はすごく多くて、わたしの実家の前の道路にも4、5軒ありました。
茶館といっても、お茶を飲むのが目的とは言い難く、メインはやはり麻雀です。付け加えるとすれば、雑談や商談、耳かきなどですね。成都には観光客向けの茶館もありますが、地元の人たちとしては、茶館は麻雀などをする場所という意識をもっています。
四川省の方言は、イメージとしては関西弁に近く、話しているだけでお笑い的なニュアンスが感じられるようです。
その特性を生かして、アメリカのアニメの四川語バージョンなどをつくって、よりコミカルな味を出そうとしているようです。
■「パンダだらけの動物園」がとにかくかわいい
四川省はジャイアントパンダの生息地としても知られています。
野生のジャイアントパンダがいるのは四川省、陝西省、甘粛省だけで、四川省がいちばん多いので“パンダの故郷”とも言われています。
四川省にはジャイアントパンダの繁殖・保護センターが3か所あります。そのなかでも、成都のジャイアントパンダ保護研究センターの規模が大きく、200頭くらいのパンダがいます。研究施設のような名称ですが、パンダだらけの動物園のようなものです。
わたしはこの施設で生後1カ月ぐらいのパンダを見ることができました。ぬいぐるみのようなパンダが20~30頭くらい並んでいて、ものすごくかわいかった!
繁殖が難しいので、常に赤ちゃんパンダが見られるわけではないのですが、行ったことがある人はみんな大満足しています。観光には超おススメです。
成都の西南にある峨眉(がび)山と、そこからあまり離れていないところにある楽山(らくさん)大仏は、合わせて世界遺産に登録されています。
■黄河文明と異なる特徴を持つ文明が実在した?
峨眉山は中国四大仏教名山、中国三大霊山に挙げられ、報国寺(ほうこくじ)などの古刹(こさつ)が点在しています。峨眉山には約500頭の野生サルがいて、人に懐きやすくかわいらしい面もありますが、たまに観光客の荷物や食べ物を盗むこともあるので、気をつけましょう! 楽山大仏は全長が71メートルあり、東大寺の大仏の5倍にもなる巨大な石仏です。
成都から38キロ離れている徳陽市で、1930年代に三星堆遺跡が発見されたことは世間を驚かせました。約5000年前から約3000年前に栄えた古蜀文明のものです。古代中国の文明の中心とされてきた黄河文明と明らかに特徴が違う青銅器や玉器が多数出土しました。
高度な青銅製造技術を有していたと見られ、謎に包まれています。徳陽市の三星堆博物館で謎めいた三星堆文明の様子を感じることができます。記者の仕事をしている日本人の友達は、三星堆博物館が四川省の中で一番衝撃を受けたスポットと言いました。四川省はいいところなので、ぜひ来てください。
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