障がい者手帳の不正利用は社会問題。レンタル障がい者本人が語る、制度の現実と課題とは
◆「障害者手帳の不正利用」などの批判で炎上

今年1月上旬、ツイッターに投稿された「レンタル障がい者」というサービスが話題を呼んだ。投稿には「美術館や博物館などの施設で『障がい者を介助したいシーン』でご利用ください。かかった交通費だけもらいます」とあり、ツイート主である21歳の男性(レン障さん)をレンタルすることができる。

また「障がい者手帳を持っているため、施設の利用料は介助者ともに割引されることがあります」とも書かれている。障害者手帳を持っている人の介助者は、同伴すると入場料等が割引・無料になるというのが“売り”となっている。

最初は「いいね」もフォロワーからの1つしかなく、依頼も来なかった。しかし数時間後、インフルエンサーたちがリツイートしたことで、爆発的に拡散。募集した2つの投稿は合わせて、約3800いいね、約7600リツイート、アカウントは数日で約2000万インプレッションを記録した。レン障さんいわく「今まで見たことないくらい」の注目を浴びたのだ。

これに「障害者手帳を不正利用している。制度の悪用では」「手帳の取得や利用に制限がかかるきっかけになりかねない」「制度を作ってくれた国や、協力してくれる施設に対しても失礼だ」などの批判が殺到して炎上した。

このレン障さんとは、どのような人なのか。どうしてこのようなサービスを始めたのか。そして、実際にレンタルした人はどう感じたのだろうか。

◆「レンタル障がい者」と映画館に行ってみた

まず、取材とは別に彼をレンタルしてみた。

筆者は一人で映画館に行けない。鬱気味でひきこもり、また多動や暗闇が不安だからだ。そこで「一緒に映画を観てほしい」と依頼した。

交通費はペイペイで前払い。映画も予め障害者割引の席を予約した。レン障さんは予定を忘れやすい特性があるので、前日にメッセージを送っておく必要がある。さらに、遅刻など時間管理が苦手な部分もあるのではと思い、出発時にもメッセージした。

互いに遅刻もなく渋谷のハチ公前で集合すると、早速2人で写真を撮ろうとするなど、人懐っこい印象だ。グーグルマップで迷う筆者を見て、レン障さんは「実は道も調べてきた」と言って、道案内してくれた。「なんか依頼やるうちに有能になってきちゃって、ほどほどにポンコツやらなきゃ」と笑うレン障さん。

映画館代は通常なら約2000円だが、障害者手帳を持つレン障さんと、介助者として同行する筆者でそれぞれ1000円。どちらも筆者が払うので、値段的には1人で行くのとほぼ変わらない。

映画では、筆者は観ながら身体を動かし続けてしまっていたが、レン障さんはとくにこちらを気にすることもなく、落ち着いて観ていた。おかげで筆者も「自分も観続けられそうだな」と思うことができ、最後まで席を立たずに見ることができた。

そもそもシステム上、同行して割引や無料になったとしても、東京から離れたレン障さんの交通費を払ったり、一緒にご飯を食べておごったりすると、1人で行くよりも上回ってしまう。

筆者のおごりで一緒にご飯を食べていると、レン障さんは「お金かからないほうが嬉しい。しのびねえから」と言う。

レン障さんはある時「障害年金をもらっていて、お金ないです」という人にレンタルされて、ライブに行った。その内訳は「俺(レン障さん)の交通費が3000円、ライブ代が一人5000円」と、レン障さんには8000円払っていることになる。その人は当日誕生日だったそうで、彼の恋人も同席。その依頼者は合計3人分の費用を出したのだ。

さらに「彼は、親にも支えてもらっているらしいのに。友達になりたいというので、ラインで繋がって、また今度遊ぶことになった」という。障害を持つ当事者から「友達になりたい」という依頼は、ことの他多いらしい。

確かに、人当たりの良いレン障さんは「友達になりたいな」と思わせるタイプの人間だ。個人的には、筆者の鬱や多動にも気にせず接してくれることもあり、話をしていてとても楽に感じだ。

◆双極性障害で手帳2級「ひきこもっていると鬱になる」

レン障さんは現在21歳、実家でアルバイトをして生活している。小学校低学年の時にADHDと診断され、高校生の時に双極性障害で2級の障害者手帳を取った。双極性障害とは、気分が高まったり落ち込んだり、躁状態と鬱状態を繰り返す病気だ。

高校生の時には躁状態になり「全国の高校生を集めた音楽フェスを開きたい」と、何百人もの有名人にメッセージを送った。「皆が協力してくれると信じて疑わなかった」が、その後に鬱がくると、その時の行動を思い出して引きこもってしまった。

高校卒業後はフリーター生活をしていたが、双極性障害の症状は出続けていた。「2、3週間ベッドの上で泣いてたかと思えば、突如マックが食べたくなり、山を越えて(マックがある)町に出かけて買いに行くとか。2年間で8回も引っ越していた。躁を繰り返すので」と語る。

話題になった投稿については「ある意味“ネタ”のつもりだった。色んな経験を聞いたり、友だちを増やしたりしたいなと思った。面白い人たちと、インターネットを通じて会えたら」と気軽な気持ちで書き込んだという。

現在は「多少躁かもしれない」。しかし「レンタルのスケジュールちゃんと合わせることができて、生活には影響していない。昔は予定が入っていると、そのことばかり考えて何も手につかなかったが、今は来月まで一日いくつもの依頼で埋まっていても、平常心で過ごせている」と落ち着いているようだ。

昨年行った離島でのアルバイト生活での経験や、「レンタル障がい者」を行ううちに、気にならなくなってきたと言う。

4月4日時点で、受けた依頼は31人。「リピーターが多く、女性は少なめ。障害当事者で、自分も手帳を持っていますという人は8人いた。あとは大学院生や役者などいろいろ。レンタルの理由は『話をしてみたい』が一番。今後も依頼がある限りはやる」と言う。

レン障さんは「そもそも鬱もあって大変な人間なんだから、面白いことしていた方が楽じゃん。家で引きこもっていても鬱になる。動いていたほうが楽じゃん。交通費タダで動き回れてラッキー」と笑う。

店を出る際、彼が机にマスクや携帯を忘れたが、筆者が指摘し事なきを得た。彼は注意が散漫な所も多少あるようだが、それはお互いさまだ。

◆障害を持っている依頼者と友達に

批判の中で多かったのは「割引目的の不正利用」というものだ。実際に彼をレンタルした人は、施設等の割引目的だったのだろうか。

「にわかーず」さんは40代男性、投稿が出てから1週間後にレンタルした。依頼は「レン障くんの行きたい所を散歩したい」というもの。「友達を作りたい」「どんな人なのか知りたい」という理由からだった。

1時間遅刻したレン障さんさんを待つ。待ち合わせ場所の近くに川があり、そこから散歩開始だ。11kmも歩き、途中で団子を買って食べたり、2人で川べりに行って尾崎豊を歌ったりして楽しんだという。

にわかーずさんは生まれつきの難聴だ。しかし障害者手帳は取得していない。「耳が悪いので、突然話題が変わると、話についていけない」というが「レン障くんもレン障くんで『ごめん、今ボーッとしてて聴いてなかった』ってなりがちでウケた」と、ADHD特性を隠そうともしないレン障さんとの散歩は、リラックスできたとのこと。

印象に残ったのは、散歩しながらレン障さんが言ってくれた「難聴を開きなおれるやつに悪いやつはいないからな。開き直りが大事」と言う言葉だ。

にわかーずさんは「最近働き始めたこともあり、『聴こえない』ということが怖くなっていた」と言う。でも「レン障くんといる時間は開き直ることができていた。開き直ることを許してくれ、本音で語ることを受け容れてくれた」と、自分らしくいられる時間だったと言う。

にわかーずさんは「レン障くんはもう、友達です」と言う。歩いた後は近くの居酒屋へ行き、2人で飲んだ。後日2人はレンタル依頼とは別に、カラオケに行って今度はブルーハーツを歌ったとのことだ。

◆相手の弱い部分をさりげなくカバーする、レン障さんの気遣い

あーるさんは、レン障さんいわく「少なめ」という女性依頼者の一人だ。あーるさんもレン障さんに会ってみたかったという。

理由は「厚労省が『介助者とは家族や友人、医療関係者が前提』という見解を出していた。障害者を世の中から分けた存在になることを助長してムカついた」という行政への反発の気持ちから。また「こんな炎上しやすいビジネスをなぜ始めたのだろうという興味もあった。

あーるさん自身も「握力が5kgしかない」上肢の障害を持っており、障害者手帳を持っている。また、香料などの化学物質を嗅ぐと倒れてしまうほどのアレルギーが出る体質でもある。

あーるさんのおごりで、2人でタイ料理を食べた。「(レン障さんは)おごってもらうくせに経済状況を心配してくれた」とあーるさんは笑う。またビジネスにはしていないこともわかった。

その後「以前からなんとなく行きたかった」水族館へ行った。水族館では「香水がきつい人が近づいてきそうな時に、率先して声をかけてくれた」と言う。あーるさんは香水のきつい匂いをかぐと動けなくなってしまう。しかしここでもレン障さんのエスコートがあったようだ。

最後に河川敷を散歩した。「堤防を登る時に(あーるさんの握力が弱いため)手を貸してくれた。優しくて気の利く方だった」と言う。「本当に楽しかったし、また遊びたい。次はレン障さんが淹れたコーヒーを飲んでみたい」と満足げに微笑んだ。

◆交通費と飯をおごってくれる友達がいたっていい

レン障さんへの批判は、ほとんどネット上でのものだ。対面で批判されたことはほぼないという。批判的な意見は、主に障害当事者たちと思われるアカウントのものが多かった。とくに障害者手帳を持っていると思われる人から「介助者は本来、家族や友人、医療関係者のこと。ネットで募るのは、本来の使い方ではない」という意見が目立った。

レン障さんは「事情があって、家族には頼めない」と言う。さらに「別に、交通費と飯おごってくれる友だちがいたっていいじゃん」とも。

レン障さんはブログにこう書いている。「現実で遊ぶ友人となると交通費や食事代、その他少なくない経費がかかってしまう。『お金がない』という理由で、今まで一体いくつの遊びの誘いを断っただろうか? いつもお金がないから、と誘わなくなった友人はいないだろうか? だったら『交通費出してあげるからおいでよ』と言ってくれる人のほうが、自分に興味をもっている点で友だちになりやすいのではないかと思う」と、自分に興味を持ってレンタルしてくれる時点で友人になりうるとする。

◆当事者が引け目を感じるような福祉はムダじゃないのか

もっとも、おごってくれるご飯については「僕の腹具合と、相手の財布具合。『おごってほしいな』ととりあえず言うけど、『やだ』っていわれたら『OK』です」と、ご飯をおごることは必ずしもレンタルの条件ではないという。

レン障さんに対する他の批判的意見としては、「友だちが欲しいなら、障害者手帳を使わずに『遊びませんか』と呼びかければよい」というものもあった。

レン障さんは「そんなつまんないやり方で、友達なんか増えるわけがない。それにこちらからダイレクトメッセージをして『遊ぼう』だなんで、そんなナンパみたいなことはできない。待ちの姿勢で、いかに人を集められるか」と言う。

さらに「障害者のイメージが悪くなる」という声には、レン障さんは「当事者が引け目を感じるような福祉ってムダじゃないのかな」と、逆に疑問を呈した。

◆乙武さん「『レンタル障がい者』は、健常者と障害者が出会うきっかけになる」

「障害者手帳での割引」を提示した友達募集の仕方は、本当に「本来の趣旨」に反しているのだろうか。

レン障さんは1月下旬、作家の乙武洋匡さんにレンタルされて対談を行った。対談の様子は1月28日に公開されたYouTubeチャンネルで見ることができる。乙武さんは先天性四肢欠損で、1種1級の障害等級を持つ。

乙武さんは「レンタル障がい者」を「社会的にすごく意義のある動き」と評価し、健常者と障害者が出会うきっかけの一つになりうると指摘した。

「僕らからしたら、いろんな人に介助してもらって生活を成り立たせたいと思うけど、健常者側からしたら、そんなことするメリットってあんまりない。そんな時『僕と行くと割引になるんで(一緒に)どうですか』というインセンティブが働くのは、僕はむしろ大事かなと思うんですよね」(乙武さん)

また、健常者と障害者との分断について語り、「小さいころから支援学校・学級で育った子どもは、健常者の友達を作る機会がない。だから友人に介助してもらってくださいって言われても、友人も同じ障害者ばかり。医療関係者といっても、身体障害の世界でも、普段から医療関係者と行動をともにしている人ってあまりいない」と、そもそも介助者が足りていない現状も指摘した。

ネットも批判ばかりでなく、「レンタル障がい者」を支持する声もある。ツイッターには「すごい発想。応援したい」「金銭目的じゃなくて本当に友達が欲しいだけだと思う。相手もお得に行けそうで、賢いやり方だとは思う」また「自分も一級の手帳持ちだが、今現在、健常者の友だちはいない。レンタル障がい者をやってみたい」さらには「割引のきく施設で働いているが、どんな形でも来てくれるのはうれしい」という声もあった。

レン障さんは「健常者とどっかいくより、引きこもっている障害者の助けになりたい」と言う。依頼ではないが、レン障さんの活動ぶりを見て「自分も障害があってひきこもりだが、展覧会や博物館に行ってみたいと思えるようになった」というメッセージも来たという。

現在の障害者福祉の制度は、当事者が友だちを作ろうとする時、外へ出て世界を広げたいと思う時、寄り添ってくれるものだろうか。さまざまな物議をかもした「レンタル障がい者」だが、制度を「こんなふうに使えたらいい」と思う、当事者たちのニーズをくみ上げたことは間違いないようだ。

文・写真/遠藤一

笑顔で障害者手帳を見せるレン障さん

(出典 news.nicovideo.jp)

𠮷川晃司のコメント

障がい者手帳は、本来は障がい者が必要としている支援を受けるために発行されるものです。不正利用によって、真に必要な人たちが支援を受ける権利を奪われてしまうことがあってはなりません。

<このニュースへのネットの反応>

想定されていない使い方であって厳密には不正利用、悪用、法律違反ではないな。制度を作った頃は「ネットで知り合った赤の他人と障がい者割引を使った割り勘で楽しむ」行為なんて想像できるわけないし。個人的には「交通費と食費は自分で出せば」叩かれなかったと思う

制度をうまく利用しているな、とは思うし、やっぱ障碍者の気持ちは障碍者が一番わかるから、仲良くもなり易いしな。だがなんにしてもレンタルという名前が良くない。

レンタルの人に気を遣って、相手の交通費まで出して、割引や利用したい人はいるのかね。割に合わない気がするが…

障がい者も便乗者もwin-winの関係なら外部が文句を言う筋合いはないんだけど、悪質な使い方が増加する温床になる危険性もないか?NHKの受信料を障がい者免除させるために世帯主登録させたり、電話代の障がい者割使うために名義だけ貸してもらって大量に契約したりとかね

*カップルが遺産を相手に残すために養子縁組するみたいな話か?

この記事では「悪くないお仕事かな?」っていう印象を受けるけど、そう思わせるのは全部業者個人の人間性のおかげだな。悪党がツバつけたらあっという間に阿鼻叫喚になると思う。まあこの業者は実際ワルいやつじゃないとは思うよ

レンタルという名前が「ものを金銭で貸す」という意味な以上、障碍者手帳を貸すって意味にとられちゃうでしょう。この記事の内容そのものなら非難したくないけど、名付けが悪いのと悪用の不安の二点は端から見て不安。

綺麗ごとの様に言ってるけど結局は目先の金だろ?介助がクソ野郎だった場合、障害を持ってる側は万が一の時自衛できるの?逆に障害を持ってる人に何かあったら介助してる奴は対処できるの?更に何かあった時の保障保証、責任の有無はどうすんのか?保険は?とか試みとしては良い部分も有るが、もう少し熟慮する事があるんじゃないかと思う。

医療費生活費の支援なら分かるが、美術館を割引してやる必要なんてないだろ。悪用以前に余計なことするな。

障碍者っていうのは事実でしょうね、頭の方のだけどね。

後で自分の首を絞めるような結果になっても文句言わないなら好きにすればええんちゃう?

違法でも不正利用でもないとしても正直レンタルってのは心象良くないと思う。あとこの手のサービス?が普及してしまうと悪用する奴が必ず出てきて規制が厳しくなるだけじゃないかな

「別に、交通費と飯おごってくれる友だちがいたっていいじゃん」開き直るなよ障害者。常にこんな状態なら申し訳ないと思うのが健常者。そこで居直れるのは障害者利権を悪用している証拠の何物でもない

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