楽天モバイルが直面する財務戦略の厳しい現実とは?

「楽天モバイル」の正念場について、ユーザーとして今後の動向が気になります。楽天が培ってきたビジネスモデルと、格安キャリア市場の変化をどのように乗り越えていくのか、注目したいと思います。
 2022年度決算で、楽天グループ(以下楽天)は最終損益で4期連続かつ過去最大となる3728億円の赤字を計上しました。しかし、気になったのはその赤字の大きさよりもいつになく弱気な三木谷浩史社長の言動でした。

【画像を見る】楽天モバイルと競合3キャリアの基地局数、楽天モバイルの整備費、決算発表に出席した三木谷社長の詳細(全11枚)

特に「グロスの有利子負債を増やす予定はない」という発言には、まだまだモバイル事業で多額の投資が見込まれる中で、格付の低下がボディブロー的に効いている印象を強くさせられました。

現在、楽天銀行、楽天証券の株式公開を見込んでいますが、ここにきてまた米国発の金融不安で株式市場は不透明さを増しており、「カネの切れ目が野望の切れ目」になりそうなムードも漂っているのです。

●“銭喰い虫”状態の「楽天モバイル」

4期連続赤字決算最大の原因は、モバイル事業の巨額赤字に他なりません。祖業であるECビジネスや金融ビジネスは順調に利益を上げていながら、三木谷氏の肝いりで新規参入したモバイル事業がどうにもこうにも“銭喰い虫”状態であり続けているのです。

その銭喰い虫の正体は、巨額の基地局整備費用です。ドコモ、KDDI、ソフトバンクに続く「第4の携帯電話キャリア」として国の許諾を受けゼロから立ち上げた事業であり、日本全国津々浦々まで通信を行き届かせるためには、気の遠くなるような基地局設置が必要であり、そこに巨額の資金を投じているがために有利子負債が1兆7600億円にも積み上ってしまったのです。

●基地局数はドコモの5分の1

2020年から本格スタートした楽天の基地局設置ですが、今回の決算発表で公表された最新基地局数は5万2000局です。総務省の「令和4年度携帯電話及び全国BWAに係る 電波の利用状況調査」によるNTTドコモの国内基地局数は、4Gだけでも約26万局あり(KDDIは約20万局、ソフトバンクは約17万局)、楽天はそのわずか5分の1なのです。

●23年は3000億円、巨額投資続く 上場で調達?

決算発表で三木谷社長は基地局整備費について、23年は22年同様3000億円を見込みつつも24年からは投資金額が大幅に減るとしています。しかし先行3キャリアに伍して戦うためには基地局数で圧倒的に少ない状況を早急に解消していく必要があり、かつ5G・6G対応も待ち受けているわけで、この先も巨額の投資は続くと考えるのが妥当と考えます。

一方で「グロスの有利子負債を増やす予定はない」と宣言しており、年間3000億円もの投資資金をいかに調達していくのかが、大きな問題です。今確実に見えているのは、楽天銀行の株式公開です。

4月21日の東証プライム市場への上場が東京証券取引所から承認され、これは正式に決定しました。楽天は今回、保有株式の約3割を売り出し、最大で1000億円超を調達できる見通しとのことです。さらに楽天証券についても「早期のIPOを目指す」としており、できれば23年中に実現して、資金の足しにしたいという思惑がみてとれます。

●ウクライナ戦争、金融不安...... 不安要素多く

しかしながら、ウクライナ情勢や主要国の景気減速などを受けて市況が低調に転じたのは、楽天が運にも見放されつつあるように思えてなりません。

株式市況の回復を待って22年にいったん延期した楽天銀行の上場は、23年に入って手続きを進めたものの、今度は米シリコンバレー銀の破綻やスイス政府主導でのUBSによるクレディスイス買収などによる市況への追い打ちがあり、まさに「泣きっ面に蜂」状態。楽天証券の上場も果たして23年中にできるのか、不安要素の方が強いように思います。資金繰りに窮して持株売却を急ぐなら、想定している調達金額が未達に終わるという事態も十分考えられます。

加えて申し上げれば、楽天銀行および楽天証券は十分に利益が出ているわけであり、この持ち株を一部とはいえ売却することは、将来収益を実現前に手放して、目先の現金を手に入れることでもあります。

そこに持ってきて先を急いで安い株価での持株売却ともなれば、株主から株主利益を棄損する行為としての訴訟リスクも考えなくてはいけなくなるわけで、現状の市況からは楽天証券の上場は一筋縄ではいかないようにも思うのです。

●続々と償還期限迎える巨額社債

投資資金確保以外にも、楽天の資金面にはもう一つ大きな問題があります。それは主な資金調達手段として発行してきた社債が、6月以降に続々と償還期限を迎えるという事実です。

23年最大の注目は、12月の期限前償還条項付劣後債680億円の期限前償還ファーストコールです。ファーストコールとは、発行時に決めた償還可能日のうち、最初に到来する日のこと。必ずしもこの日に償還させなくてはいけない義務はありませんが、一般的には初回に償還するケースが多いです。これを見送ることは可能ですが、そうなれば同社の財務的な苦境を世間にさらけ出すことになり、株価や格付けに一層のマイナス要因となる可能性が高いのです。

格付に関しては、ただでさえS&Pが22年末に投機的水準である「BB」(ダブルB)への引き下げを発表しており、今後の社債発行に対する応募者の減少や利率の上昇は避けられない状況にあります。現実に国内では社債の引き受け手は少なくなっており、22年11月と23年1月に海外で発行した社債は、既に実質12%という高利回りに跳ね上がっているのです。

23年の社債償還額は先の劣後債680億円を含め約800億円ですが、24年は約3000億円、翌25年にはファーストコールを含め約5000億円もの巨額償還が待ち受けます。高い利率での借り換えを余儀なくされ有利子負債負担に一層苦しむことになるのか、別の資金調達手段によって償還対応するのか、はたまたこれは楽天の行く末を左右する大きな問題です。

●資金調達が必要 でも策は限られる

別の資金調達手段の一つは、カードや保険など他の好調グループ企業の上場による持株売却、あるいは出資受け入れ、さらには売却という文字通り「身を削る」策のみでしょう。しかし各子会社は、どれも三木谷社長が目論む「楽天経済圏」の完成に向け不可欠なピースであり、一定比率以上の資本を手放すわけにはいかないという点がネックになります。少なくとも1兆7600億円の有利子負債を大幅に削減する決定打にはなり得ません。

となると残るは、三木谷社長が決算会見で口にした「親会社および子会社での戦略的業務提携・外部資本の活用」以外にありません。既に21年に日本郵政から1500億円、中国テンセントから約660億円、米ウォルマートから約170億円の出資をそれぞれ受け入れ、さらに22年、国内メガバンクグループのみずほFGから800億円の出資(楽天証券への20%の出資)も受けています。

通信事業は国家機密にも通じる領域ゆえに、テンセントからの出資は問題視された経緯もあり、海外資本からの更なる受け入れは難しそうです。国内でも、日本郵政やみずほFGとバッティングせず、かつ楽天との提携メリットを見出し資金的余裕のある先がどれほどあるのか。これも苦しい状況にあることは間違いありません。

もちろんいざとなれば、銀行団との契約で確保している手つかずのコミットメントライン1500億円があります。これは常々、楽天の手元流動性リスクを否定する根拠となっている資金枠で契約上はいつでも使えるのですが、これに手を付けるのは資金繰りの崩壊を意味し、もはやどこからも資金が引っ張れない状況をアナウンスするそんな最後の命綱であり、実質的には手を出せない資金なのです。

●まるでチキンレース 明るい材料なしの財務状況

このように周辺環境など事実を客観的に見ると、楽天の資金面に明るい材料はほとんどなく、現状は「どこで行き詰るか分からんが、行けるだけ行ってみろ」というチキンレースを展開しているかのようにも思えてきます。

三木谷社長の言う「戦略的業務提携・外部資本の活用」は、完全白旗状態でのモバイル事業の売却すらも視野に入れたものではないのか、とうがった見方もしたくなる、そんな状況ですらあると思います。

●2023年は楽天にとって正念場に

もちろん、モバイル事業の単体での黒字化が果たせるならばすべての問題は解決するのですが、契約者数、月間平均ARPU(契約者あたり月平均収入)、基地教数すべてが大手3社と比して圧倒的に後塵を拝している現状では、これが一番難しい。

当面は外部資金に頼る以外にない状況がまだまだ続く中、「金の切れ目が野望の切れ目」になるのかならないのか、23年は楽天にとって本当の正念場になりそうです。

著者プロフィール・大関暁夫(おおぜきあけお)

株式会社スタジオ02 代表取締役

横浜銀行に入り現場および現場指導の他、新聞記者経験もある異色の銀行マンとして活躍。全銀協出向時はいわゆるMOF担として、現メガバンクトップなどと行動を共にして政官界との調整役を務めた。銀行では企画、営業企画部門を歴任し、06年支店長職をひと区切りとして円満退社した。その後は上場ベンチャー企業役員などとして活躍。現在は金融機関、上場企業、ベンチャー企業のアドバイザリーをする傍ら、出身の有名超進学校人脈や銀行時代の官民有力人脈を駆使した情報通企業アナリストとして、メディア執筆者やコメンテーターを務めている。

楽天のオフィス(出典:同社公式Webサイト)

(出典 news.nicovideo.jp)

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