「70歳を超えたら手術は賢明な選択」は本当か?医師・和田秀樹氏の助言。

𠮷川晃司のコメント

「70歳以上なら手術をしない方がいい」という言葉には一理あるかもしれませんね。でも、それは一概に当てはまるわけではないと思います。個人の体調や状態によっては手術を受けた方が適切な場合もあるでしょう。

いい医者を見極めるためのポイントは何か。医師の和田秀樹さんは「患者の訴えに取り合わない医師は避けるべきだ。高齢者にとっての理想のかかりつけ医は、自分にとって話がしやすいかどうかが大切なポイントである」という――。

※本稿は、和田秀樹『70歳からは大学病院に行ってはいけない』(宝島社新書)の一部を再編集したものです。

■手術のベネフィットとリスクをどれだけ説明してくれるか

大学病院の医師だけでなく、町の開業医もその多くは本当の意味での総合診療ができる医師ではないというのならば、どこで受診すればいいのですか、という声が聞こえてきそうです。

もちろん非常に難しい手術であるとか、専門性の高い病気については、やはり専門医に診てもらうのがいいわけですが、年を重ねて体のあちこちに小さな支障が生じてきているというような日常の診療に関しては、まず患者さんの話をきちんと聞いてくれる医者かどうかということで見極めることが大切です。

きわめて当たり前の話なのですが、そうした意識で医者選びをしている人が意外に少ないように感じています。

さらに言うならば、仮に命にかかわるような専門性の高い病気であったとしても、ハイレベルな治療を受けることでかえって残りの人生の質を落としかねないわけですから、専門医だからといってすべて任せて安心なわけでなく慎重に選ぶべきでしょう。

手術のベネフィットとリスクを患者が納得してくれるまで説明してくれる医者は、信用できるのではないでしょうか。

がんなどが一番わかりやすい例なのですが、いわゆる名医と言われている人は、たしかに手術の失敗が少なく、5年後、10年後の生存率が高いかもしれません。

しかし、がんの名医であるということと、患者さんのその後の健康に対するフォローもしっかりしているかどうかということとはまったく関係ありません。

■70歳を超えたら手術をしないに越したことはない

たとえば、胃がんだったので胃の3分の2を切除した、というような場合。たしかにがんはきれいに取り除かれて5年後も生きていたとしても、胃を半分以上切除したわけですから、体へのダメージは小さくありません。

食事も満足にとれなくなって一気に体も弱くなり、かろうじて生きながらえている、というような状態になっている可能性もあるでしょう。

しかし、そのことに関して執刀した名医はあまり関知しないのです。手術が成功したことと、5年後も生存していたこと、それが彼の実績として評価に加われば十分なのです。

もちろん、まだ若い患者さんであれば、転移のリスクを少しでも減らすために大きめに臓器を切除したとしても、体力もありますからその後に回復していく可能性は大いにあるでしょう。

しかし、若い患者さんにも高齢の患者さんにも同じような手術をやって、高齢の患者さんをヨボヨボにするリスクはおかまいなし、というような外科医が実は少なくありません。

70歳を超えたら、私は手術をしないに越したことはないと考えています。いかにできる限り体力を温存しつつ「生活の質」(QOL)を保つかということが、患者さんの幸せのために一番重要ではないかと考えるからです。

そもそも、高齢になるとがんの進行もゆっくりですから、放置していても5年、10年、大丈夫な場合も少なくありません。その5年、10年を食べたいものを食べて好きなことをして過ごすか。あるいは、5年、10年の余命では満足できない! というのであれば大学病院などで専門医による治療を受けるというのも選択肢のひとつでしょう。

そこで臓器を切り取り、抗がん剤などで体にダメージを与え、ヨボヨボの10年、15年をかろうじて生きながらえることになるかもしれないリスクに挑むか。これは患者さんやご家族など、当事者が最終的に決断することなのだろうと思うのです。

■治療より生活を優先してくれるかどうか

最終的には、当事者である患者さんが、どのような治療を望むのかを決定すべきですが、現実的には、患者さん個人の気持ち、話にきちんと耳を貸そうとしない医者が少なくないというのもまた事実です。

最適な治療がわかるのは専門家である医師の自分であって、素人の患者が医者の言うことを聞かないのであれば、あとはどうなって知りませんよ、というような形で治療を投げてしまうような医師もいます。

ですから、まずはきちんと患者さんの話を聞こうとする姿勢のある医師を探すということが、何よりも大切です。

今出してもらっている薬が、どうも合わないようだから変えてほしいといったようなことをどんどん言ってみるべきです。そういうときに、患者さんが一人暮らしなのか、あるいは家族と同居しているのか、家はマンションなのか一軒家なのかなど、暮らしぶりにも思いを馳せながら、よりよい薬を考えて提案してくれるような医者は、よい医者です。

あるいは、自分の病院以外にどういったところに通院してどんな薬を飲んでいるのかについても常に気を配ってくれて、処方されている薬が大量になっている場合に、体への負担を考えて薬を減らすような提案をしてくれる医者もいい医者だと思います。これができるのは、きちんと総合診療ができる医者だということです。

逆に、一つひとつの検査データにばかり目が向いていて、データ至上主義のようになって、それぞれの症状に応じた薬を何種類も無頓着に処方してくるような医者は要注意です。

■「どうなっても知りませんよ」と口にする医者は論外

そもそも、高齢になってくると服薬の管理だけでも一苦労です。朝食後に飲む薬、三食後に飲む薬、寝る前の薬、そこに一日2回の目薬などが加わってくると、今朝は薬を飲んだっけ? 目薬はさしたっけ? と混乱し、それだけでも大きなストレスになります。

最近は一包化といって薬を1回分ごとにまとめてくれるサービスを調剤薬局がやってくれますが、その場合、合わない薬を取り除くのが難しくなるリスクもあります。

加えて薬を飲むとだるくなる、頭がぼんやりする、と患者さんが訴えているにもかかわらず、「血圧は正常値を保っていますよ。薬はちゃんと効いているのだから、このまま続けましょう」とか、「ちゃんと飲まないと、責任持てませんよ」などと言って、患者さんの訴えに取り合わないような医師は、高齢者のかかりつけ医としては不向きだと言えます。

ましてや、「こちらの治療に従わないのであれば、どうなっても知りませんよ」とか、「寝たきりになりますよ」「死にますよ」などという脅し文句を平気で口にする医者は問題外です。

若い患者さんであれば、多少体に負担をかけるような外科的な治療や強い薬を用いても、病気を克服して健康を取り戻せる可能性は高いですが、70歳を過ぎた患者さんは、できる限り肉体や精神への苦痛を軽減し、楽に生活できることを第一に考えた治療をするべきです。

脅かすような言動で自分の治療法を押し付けるような医師に、心身の健康サポートを委ねるのは難しいでしょう。また、受診するたびに暗いこと、怖いことを言われて気分が落ち込むような医師も困ります。

■やたら新薬を勧めてくる医者は要注意

あるいは、やたらと新しい薬を勧めてくる医者も要注意です。

たとえば、ある新しい血圧の薬が出たとします。その薬が、これまでの同種の薬より副作用が少なくなっているとしましょう。その代わり、薬価は数倍高くなっています。

しかし、副作用が少なくなっているとしても、副作用というのは個人差がありますから、いくらこれまでの薬よりも確率が少ないといっても、その患者さんにとっての副作用がどの程度になるのかは実際に投与してみなければわかりません。

そして、今まで使っていた薬でとくに問題となるような副作用が出ていないのだとすれば、あえて新しい薬に変える必要は本来ありません。

薬価が高いということは、国の医療費負担も個人の負担も増えるわけですから、今、服用している薬できちんと血圧がコントロールされているのであれば、むしろ変えるべきではないのです。それなのに、わざわざ新薬を勧めてくるような医師は、どこからか圧力を受けている可能性があるのかもしれません。

たとえば、医局にいずれ戻るつもりでいる医師。上司にあたる教授が、その新薬の治験メンバーの一人だったとすれば、当然「なぜ君はこちらの薬を使わないのだ。副作用も少なくて有効性も高いという結果が出ているというのに。そんな不勉強なことでは医局には帰せない」といわんばかりの圧を感じていることでしょう。

その場合、医師が見ているのは目の前の患者ではなく、自分の今後の出世を握っている医局の上司です。

■発売から20年経っている薬の副作用は予測可能

一方で教授のほうは、開発した新薬に関する講演会などに呼ばれて謝礼をもらい、新薬がいかに優れているかについてせっせと講演をするわけです。結局、新薬の利権に群がる人たちの餌食にされるのは、患者一人ひとりです。

当たり前の話ですが、発売されてから20年経っている薬というのは、20年飲み続けている人がいるわけですからデータが蓄積されており、どんな副作用が出るのかは予測可能なわけです。

一方、出たばかりの新薬は飲み続けて5年後、10年後の副作用はまったく未知数です。言うなれば、今回の新型コロナウイルスワクチンもこれと同じようなものですね。果たして5年後、10年後にどのような作用を及ぼすのか、まだ誰にもわかりません。

いずれにしても、高血圧の新薬についても、現在服用している薬で副作用が出て困っているとか、今の薬では血圧がうまく下がらない、というような人にだけ使えばいいのです。

ところが、莫大な費用と時間をかけて開発した薬ですから、製薬会社としてはできるだけ多くの患者に新薬に切り替えさせたい。そこには、国の医療費の増加だとか、患者の副作用のリスクなどに対する配慮は微塵(みじん)もありません。

■「自分は何を優先したいか」伝える努力を

医師も患者も人間ですから、相性という問題もあります。Aさんにとっての名医がBさんにとっての名医とは限りません。自分から意見を言ったり希望を述べたりするのが苦手で、多少権威的でもグイグイと引っ張ってくれるような医師がいいと思う人もいるかもしれません。

きちんとした数値目標を掲げて少々毒舌でも厳しめに指導してほしいというような人は、そういう医師を探せばいいと思います。ですから、相性というのは非常に大切です。友人から「いい先生よ」と言われて受診してみたところ、なんだか頼りなくて不安になった、というようなこともあるでしょう。

ただ、自分にとってよりよい医療ケアを受けたいのであれば、医師任せにするのではなく、自分は何を優先したいのか、不調に対してどのようなケアを望むのかなど、自分でしっかりと考え、それを伝える努力をしたほうがよいと思います。

そのうえで、ネットの口コミサイトなどを参考にするのもよいでしょう。よく、ネットの口コミはその人の主観が入りすぎていて客観性に乏しく、単なるクレイマーみたいな人の書き込みも多いのであてにならない、と言われたりします。

■自分にとって話がしやすい医師かどうか

たしかに、書かれた口コミすべてを真に受けるべきではないと思いますし、専門性の高い病気についての診断の是非など、簡単には判断を下せないことも少なくありません。一方で、高齢になればなるほど、患者にとって評判がいい医者は、基本的にはいい医者だと考えてよいでしょう。

『今日の治療指針』というアンチョコ本があるわけですから、よほどのヤブ医者でもない限り、治療内容はどこの医師にかかってもそう大きな差はありません。

そうであれば、きちんと話を聞いてくれる医者、安心感を与えてくれる医者、総じて口コミサイトの口コミで「いい先生」と評判になっているような医者であれば、十分によい医者候補の一人として有力だと言えるでしょう。

いずれにせよ、自分にとって話がしやすい医師であるということは、大切なポイントです。会って話を聞いてもらうだけでなんとなく気持ちが落ち着いてくる。薬を減らしたいと言ったら一緒になってその方策を考えてくれる。体に負担のかかるような治療をむやみに勧めてこない。高齢者にとっての理想のかかりつけ医はそんな医師ではないかと私は思っています。

----------

和田 秀樹(わだ・ひでき)
精神科医
1960年、大阪市生まれ。精神科医。東京大学医学部卒。ルネクリニック東京院院長、一橋大学経済学部・東京医科歯科大学非常勤講師。2022年3月発売の『80歳の壁』が2022年トーハン・日販年間総合ベストセラー1位に。メルマガ 和田秀樹の「テレビでもラジオでも言えないわたしの本音」

----------

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/byryo

(出典 news.nicovideo.jp)

Twitterでフォローしよう

おすすめの記事