撮り鉄の9900円科料は適切?鉄道ファンのルール遵守を問う議論
列車の撮影のために静岡県内の鉄道敷地に入ったとして、東京都交通局は7月31日、書類送検された男性主事を停職3日間の懲戒処分にした。
報道によると、この男性主事は2023年1月、列車を撮影する目的で、知人2人とともに、JR東海道線の敷地内に侵入した。同年3月、鉄道営業法違反の疑いで書類送検されて、横須賀簡裁が科料9900円の略式命令を出していた。
いわゆる「撮り鉄」をめぐっては、同様の事件が全国で相次いでいる。夏休みに入り、鉄道を見に行くファンも多いが、「行き過ぎた行為」には大きな法的リスクを伴う。鉄道に詳しい甲本晃啓弁護士に聞いた。
●どのような法的問題がある?
——撮り鉄が線路内に侵入する行為は、どのような法的な問題があるのでしょうか
鉄道営業法は、鉄道用地内にむやみに立ち入ることを禁止しています(鉄道営業法37条)。立ち入りによる影響の有無に関わらず処罰の対象となり、1000円以上1万円未満の「科料」という刑罰が科されます(いわゆる「前科」となります)。
なお、新幹線用地への立ち入りについては、新幹線特例法により1年以下の懲役または5万円以下の罰金の範囲で処罰されます。<参考:「新幹線の「ディズニー的」異空間、迷惑「撮り鉄」もブロック 起源は1964年東京五輪」弁護士ドットコムニュース>
私生活の出来事で刑事処分を受けたとしても、必ずしも会社から懲戒処分を受けるわけではありませんが、今回、東京都交通局は懲戒処分をおこないました。
これは、公共交通の担い手である職員が、趣味の活動とはいえ、率先して守るべきはずの法律に違反する行為をしたため、これでは示しがつかないと考えて、懲戒処分をしたのだと考えられます。
●損害賠償を求められる可能性は?
——線路内に侵入して、もしも列車の運行に影響が出た場合、鉄道会社から損害賠償を求められることはありますか
具体的に損害が発生すれば、民法709条に基づく不法行為として、損害賠償責任を負います。
法律上のポイントは具体的な損害が発生したかどうかです。たとえば、侵入に気付いた列車が急停止して、乗客が転倒してケガをした、ということになれば、その賠償を求められることになります。
電車が走る路線では、本来停車してはならない「エアセクション」という区間がところどころにあります。緊急時はこの区間でも構わず急停車します。この区間に停車するとパンタグラフに異常電流が発生し架線切断を誘発することがあります(たとえば、2015年8月4日発生のJR京浜東北線・横浜〜桜木町間で発生した事故等)。
その場合には、長時間の運休を余儀なくされることがあります。もうそうなってしまうと、運賃の払戻し、振替輸送の経費負担、対応にあたる人件費の増加などの金銭的被害のほか、通常運行であれば得られたはずの運賃収入が入らなくなった逸失利益としての損害も発生します。
法律上はこういった損害が発生すれば、侵入した人は賠償責任を負うことになります。ただし、実際に請求をするかどうかは、鉄道会社によると思います。
●「他人を思いやって撮影を楽しんでもらいたい」
——これ以外にも、鉄道ファンの行為が行き過ぎると、どのような罪に問われる可能性があるのでしょうか
「撮り鉄」は、撮影にあたって障害物がなく見通しよく列車の編成全体を構図に収めたい、列車の顔に影が入らないように光線状態を確保したいと考える傾向を持つ人が少なくありません。そのため、そういった希望を叶えるために、さまざまなトラブルがニュースになっています。
個別の事件については言及しませんが、主に
・場所のトラブル:入ってはいけない場所に立ち入ったり、場所を占領したりする
・物へのトラブル:邪魔なモノを撤去する
・人とのトラブル:構図に他人が入らないよう人を威嚇する
といった行為が問題となっています。
まず、「場所」の問題については、私有地に入るのは住居侵入罪にあたる可能性がありますし、住居にあたらない土地からの退去を求められても応じなければ不退去罪になります(いずれも刑法130条、3年以下の懲役または10万円以下の罰金)。
公道であっても撮影者が密集して往来ができなくなれば、往来妨害罪(刑法124条1項、2年以下の懲役または20万円以下の罰金)にあたる可能性があります。
次に「物」については、無断で木を伐採したり畑を踏み荒らしたりすれば器物損壊罪(刑法261条、3年以下の懲役または30万円以下の罰金もしくは科料)になり、鉄道用地内のロープや柵などを一時的であっても撤去すれば業務妨害罪(刑法233条・234条、いずれも3年以下の懲役または50万円以下の罰金)にあたる可能性があります。
最後に「人」については、構図に入った人を強い言葉で威嚇したり、他の撮影者と撮影場所を取り合って罵声を浴びせたりするといった行為が問題視されており、その様子が動画サイトを通じて拡散されたケースもあります。
たとえば、他人に対して「殺すぞコラ」「どかないと殴るぞ」なんて言葉を発していた場合には脅迫罪(刑法222条、2年以下の懲役または30万円以下の罰金)や強要(223条、3年以下の懲役)に該当するため、刑事処罰を受ける可能性があります。
《参考》<「死ねよ!ゴミ!」撮り鉄がカメラの前を横切った自動車に罵声、法的問題は?」弁護士ドットコムニュース>
もちろん、これらは「撮り鉄」の中のごく一部の人が起こしている問題であり、犯罪にあたらない場合であっても、独りよがりの迷惑行為です。時として「撮り鉄はマナーが悪いから、社会にとって迷惑な存在だ」というレッテル貼りにつながってしまう危険があります。
私にも多くの「撮り鉄」の友人がおりますが、こういった事件に心を痛め、一般人からみてもむしろ気にしすぎだと思う程に撮影マナーは徹底されています。どんな趣味でも、結局は一般社会の縮図であり良識ある人だけではありません。
マナーを守れない人に歯止めとしての法律を適用して解決することは悲しいことだと思います。是非、他人を思いやって撮影を楽しんでもらいたいと思います。
【取材協力弁護士】
甲本 晃啓(こうもと・あきひろ)弁護士
理系出身の弁護士・弁理士。東京大学大学院修了。丸の内に本部をおく「甲本・佐藤法律会計事務所」「伊藤・甲本国際商標特許事務所」の共同代表。専門は知的財産法で、著作権と特許・商標に明るい。鉄道に造詣が深く、関東の駅百選に選ばれた「根府川」駅近くに特許事務所の小田原オフィスを開設した。
事務所名:甲本・佐藤法律会計事務所
事務所URL:https://ksltp.com/
この記事は、鉄道敷地に無許可で立ち入って列車を撮影した「撮り鉄」行為に対し、9900円の過料と停職処分が科された事件について報じています。この記事で取り上げられている事例は、鉄道ファンの中でも一部の「撮り鉄」たちがマナーを守らず、他人に迷惑をかける行為が問題視されていることを浮き彫りにしています。
まず、9900円の過料が科されたという事実は、法律上の最低限の処罰が行われたことを示していますが、この金額は行為の重大性に対してあまりにも軽すぎると感じられるかもしれません。鉄道敷地への無断侵入は、列車の運行に大きな影響を与える可能性があり、最悪の場合、事故や大規模な遅延を引き起こすこともあります。そのようなリスクを考えると、9900円という罰金が抑止力として十分であるかどうかは疑問が残ります。
さらに、この記事で指摘されているように、「撮り鉄」のマナーの悪さは、時に社会全体に対して迷惑をかけるだけでなく、他の鉄道ファン全体に悪い印象を与えることにもつながります。例えば、無許可で立ち入る、他人に対して威嚇的な行動を取る、公共の場所を占有するなどの行為は、他の利用者や地域住民にとって非常に迷惑なものです。
鉄道ファン全体が悪く見られることは、真摯に趣味を楽しんでいる多くの鉄道ファンにとっても非常に不本意なことでしょう。実際には、ほとんどの鉄道ファンはマナーを守り、他人に迷惑をかけないように配慮しています。しかし、一部の「撮り鉄」の過激な行動が全体のイメージを損なう結果となっています。
社会の中で趣味を楽しむには、他人への配慮とマナーが不可欠です。鉄道敷地への無断立ち入りや他人に迷惑をかける行為は、趣味を超えた社会問題として捉えるべきであり、今後、より厳しい罰則や監視体制が必要になるかもしれません。鉄道ファンの一人一人が、こうした行動を自ら戒め、社会全体のルールを尊重することで、趣味を健全に楽しむことができる環境を守っていくべきです。
<このニュースへのネットの反応>
不法侵入・器物損壊・脅迫・暴行、それらは撮り鉄に関わらず一般人だろうが犯罪なんで裁かれて当然。思想なり表現なり行動の自由は他者の権利を害しない範囲でな。
金額安くね?
単位が違うじゃろ。円ではなく万円が妥当。
安いなと思って法律を調べたらこの法律は令和に入って修正された明治の法律で前までは10円以下の罰金だったw悪質なのは別の法律を使って罰則を強化してるみたいですよ。