なぜ共和党員がトランプ氏を暗殺したのか?心理学的側面からの考察

2024年7月13日のドナルド・トランプ前大統領暗殺未遂事件の発生は多くの人々を驚かせ、選挙戦にも大きな影響を与えると考えられます。ただ今回トランプ氏を撃ったのは、対立政党の支持者などではなく、共和党員だったと報道されています。

なぜ共和党のトランプ氏が、同じ政党の党員に撃たれてしまったのでしょうか。

今回は選挙の趨勢とは別に、暗殺の原因について論じた最新の心理学研究から、その理由を読み解いていきましょう。

人類が政治を行い始めてから今日に至るまで、政治的暴力は常に発生し続けています。

なぜ人々は自分の意思を投票ではなく、暴力をもって解決しようとするのでしょうか? また暗殺者が敵ではなく、味方の中から生まれてしまうのはなぜなのでしょうか?

研究内容の詳細は『American Politics Research』にて発表されました。

目次

  • 暗殺を心理学で読み解く

暗殺を心理学で読み解く

最近の研究により、暗殺(政治的暴力)を支持する根本的な動機や特性について重要な洞察が得られています。

ここでは、この問題に光を当てる最近の研究結果を紹介したいと思います。

政治的仲間への処罰が最も激しい暴力を引き起こす

政治的仲間への処罰が最も激しい暴力を引き起こす
政治的仲間への処罰が最も激しい暴力を引き起こす / Credit:Canva

トランプ大統領を銃撃した犯人の身元に関する情報の中から、犯人がトランプ氏が属する共和党の党員であったことが判明しました。

この事実に関して、少なくない人々が「なぜ?」と疑問に思ったはずです。

普通に考えれば、共和党員の犯人にとって最も許せないのは、対立する民主党のバイデン大統領が当選してしまうことです。

共和党に属するトランプ氏と自分の政治的意見が一部合わなくても、民主党のバイデン大統領が当選してしまえば、より自分の意見と違う政策が多く実行されてしまうはずです。

しかし歴史的にみて、同じ政治的組織や宗教に属する仲間への暴力が、全く異なる政治的組織や宗教に属する人々に対する暴力よりも激しくなり得ることがわかっています。

例えば、キリスト教やイスラム教などの宗教では、異端に対する暴力が異教徒に対する暴力よりも激しかったことが知られています。

また、共産党内部でも、最終的に妥当すべき資本主義者に対しては攻撃しなかった人々が、同じ共産党内部の意見が違う人々に対して残忍な行為に及んだ例が多くあります。

American Politics Researchに掲載された別の研究では政治的ライバルに比べて同じ政治的所属を持つ人々に対する政治的暴力に対してより厳しい罰則を好む傾向があることが示されました。

この研究ではアメリカの南西部の大規模大学の学生 342 名を対象に実施されました。

調査に当たってはまず被験者たちに殺害予告を送った学生についての架空の報告書を読んでもらいました。

また報告書にはこの学生の政治的信条についても記載されており、支持する政党は民主党・共和党・またはランダムとされました。

次に研究者たちは被験者たちに対して、加害者にどのような罰則が望ましいかを尋ねました。

すると加害者の学生が自分の支持する政党と同じだった場合(被験者が共和党支持で加害者が共和党支持だった場合など)、被験者たちは加害者に対してより重い罰則を求めることが判明しました。

この結果から、人間は同じ政治的信念を持つ人間に対して、より厳しくなることがわかります。

他にも、身近な人や同じ組織内のメンバーとの対立は、感情的な反応を引き起こしやすくなることが報告されています。

これは「近接性の影響」として知られ、近い関係にある人々との対立が深刻化する現象を説明しています。

さらに、組織内の対立は「純粋性の追求」と関連していることも指摘されています。

特にイデオロギー的な組織では、内部のメンバーがそのイデオロギーに忠実であることが強く求められ、少しでも異なる意見やアプローチが「裏切り」と見なされ、激しい攻撃の対象となることがあります。

同じ政治的思想を共有する仲間だからこそ、細部の違いにより強く、許せないという気持ちが出てしまうのです。

このように仲間に対する厳しさ、接近性の影響、純粋性などの要因により、仲間内への暴力は敵に対する暴力よりもしばしば苛烈になり得ます。

今回の暗殺未遂事件は犯人が既に死亡しているため、詳しい動機については不明です。

ですがこれまでの歴史を振り返れば「同じ共和党員としてトランプ氏を成敗する」という名目を犯人が持っていたとしても不思議ではないでしょう。

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元論文

Partisan Bias in Episodes of Political Violence
https://doi.org/10.1177/1532673X241236198

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部

【暗殺の心理学】トランプ氏が味方のはずの共和党員に撃たれてしまった理由

(出典 news.nicovideo.jp)

この記事は、2024年7月13日に発生したドナルド・トランプ前大統領の暗殺未遂事件について、特に犯人が共和党員であった点に焦点を当てています。以下の観点から論評します。

1. 事件の衝撃とその背景

トランプ前大統領が暗殺未遂の標的になったことは、アメリカの政治情勢に大きな衝撃を与えました。特に犯人が共和党員であったという事実は、多くの人々に驚きをもたらしました。これは単なる政治的対立を超えた、深刻な内部対立を示唆しています。

2. 同じ政治的グループ内での暴力

記事で紹介されている心理学研究によれば、同じ政治的グループ内での暴力が、異なるグループ間での暴力よりも激しくなる傾向があることが示されています。この現象は、歴史的にも宗教や政治組織内で見られる「異端」や「裏切り者」に対する厳しい処罰に関連しています。内部の異論に対する強い拒否反応は、純粋性の追求や近接性の影響によるものとされています。

3. 純粋性の追求と内部対立

共和党員である犯人がトランプ氏を攻撃した理由として、党内での純粋性の追求が考えられます。イデオロギー的な組織では、少しでも異なる意見や行動が「裏切り」と見なされ、激しい攻撃の対象となることがあります。トランプ氏が共和党内で強い影響力を持つ一方で、彼の方針や言動に不満を持つ党員が存在することも事実です。このような内部対立が、今回のような事件を引き起こした可能性があります。

4. 政治的暴力の根本的な動機

政治的暴力を引き起こす根本的な動機として、心理学的要因が重要です。自分の政治的信念や価値観が裏切られたと感じると、その反応は非常に感情的かつ暴力的になりやすいことが示されています。この記事で紹介されている研究では、同じ政治的信条を持つ人々に対してより厳しい罰を求める傾向が明らかにされています。これは、内部の裏切りに対する強い反発が、暴力を引き起こす一因となっていることを示唆しています。

5. 社会への影響と今後の対策

今回の事件は、アメリカ社会における政治的暴力の深刻さを改めて浮き彫りにしました。社会全体として、政治的対立が暴力に発展しないようにするためには、対話と理解が不可欠です。また、メディアや教育機関は、政治的な意見の違いを尊重し、平和的な方法で解決する重要性を強調する役割を果たすべきです。

総括

トランプ前大統領の暗殺未遂事件は、政治的内部対立がいかに深刻な暴力を引き起こすかを示しています。心理学研究によると、内部の異論に対する強い反発が暴力を誘発することが明らかにされています。社会としては、政治的対立を暴力に発展させないための対策と、内部対立の解消に向けた努力が必要です。

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