弁護士が解説、パワハラ告発職員自死事件における斎藤知事の違法行為

弁護士が解説、パワハラ告発職員自死事件における斎藤知事の違法行為

代替テキスト
8月2日、涙目で記者の質問に答える斎藤知事(写真:時事通信)

斎藤元彦知事(46)の“パワハラ・おねだり疑惑”を告発した元・西播磨県民局長のYさん(60)のみならず、阪神・オリックス優勝パレードの資金集めを担っていた担当課長まで、今年4月末に自死していたことがわかった兵庫県。

激震が続くなか、疑惑を巡る百条委員会が8月2日に開かれ、8月30日に斎藤知事自身の証人尋問を実施することが決定した。これに先立ち、7月30日から県職員ら約9,700人に行われている疑惑をめぐるアンケート調査には、「2日時点で、すでに3,538人から回答が寄せられている」(委員の丸尾牧県議会議員)という。

一方で、ふたりの部下が亡くなったにもかかわらず、斎藤元彦知事(46)は、「しっかり県政を進めていきたい」と繰り返すばかり――。

■「通報者の元に乗り込むのはやってはいけなかったこと」

そもそも、なぜYさんは自死せねばならなかったのか。そのいちばんの原因は、“公益通報者保護法”のもとで保護されなかったからだ。

「公益通報者保護法は、〈官民問わず通報窓口を設けて、内部の職員から通報を受けた場合は、通報者の不利益にならないよう調査・処理しなさい〉ということを定めた法律です。

これまでの経過を見るかぎり、兵庫県の対応は“公益通報者保護法”に反する可能性が高いと考えます」

そう見解を示すのは、公益通報制度に詳しい光前幸一弁護士。どのような点が“違反”だったのか。改めて、これまでの経緯を検証してみよう。

今年3月12日、Yさんは匿名で、斎藤知事のパワハラやおねだりなど“7つの疑惑”を記した告発文を、報道機関や議員、警察に配布。これは、公益通報者保護法の“外部通報”にあたる。

3月25日、前・片山副知事らが「文書を作成したのはYだ」と特定し、Yさんの元に乗り込み、パソコンを押収したと報じられている。

「外部通報があった場合、被通報者(兵庫県)がすべきことは、内容が事実かどうかという調査です。調査するには、〈通報者をむやみに探索してはいけない〉、通報者がわかっても〈漏えいしてはいけない〉というのが、公益通報者保護法の理念。そうしないと今回のように通報者を守れなくなるからです」(以下、「 」内は光前弁護士)

にもかかわらず、前・片山副知事は通報者をYさんだと断定、パソコンまで押収してしまった。

「場合によっては、通報者に確認しないと、告発内容の真偽を明らかにできないケースもないわけではありません。ただ、今回の告発内容は、通報者に確認しなくても調査できる。通報者の元に乗り込むなど、本来やってはいけないことです」

■外部通報は公益通常に該当しない――斎藤知事の認識は誤り

さらに3月27日、斎藤知事は会見で、告発文の内容を「嘘八百」と決めつけ県民局長の職を“解任”してしまう。

「パソコンを押収してから、わずか2日で解任ですから、告発文の内容について調査できなかったはずです。

事実かどうか調査しないまま処分を下したことは問題ですし、“被通報者”の斎藤知事や片山前副知事らが自ら処分を決定してしまったことも大きな問題です」

そもそも、斎藤知事や片山前副知事は、公益通報者保護法について理解していたのかーー。

マスコミ等への“外部通報”は、公益通報として認められているにもかかわらず、斎藤知事は4月2日の定例会見で、「兵庫県に公益通報制度というものがあるんですけど、そこでは受理していないということなので公益通報に該当しない」と発言しているのだ。

「あきらかに事実ではないことを通報した場合は、公益通報に該当しないケースもあります。しかし、4月2日の時点では、真実か否かはっきりしていない段階だったので、この時点では公益通報者保護法が規定している“外部通報”にあたります。つまり、斎藤知事の認識は誤りだったのです」

このままでは「斎藤知事らに握り潰される」と危機感を覚えたYさんは、4月4日に兵庫県の“内部告発委員会”に、改めて正式に通報。

「通常は、組織の中にある機関に“内部通報”したけれど握りつぶされた、と。それで仕方なく、マスコミなどに“外部通報”するというケースが多い。

しかし、Yさんは最初に内部通報しても“もみ消される”と思ったんでしょうね。だから最初に外部通報したのでしょう。当時、前・片山副知事は、兵庫県の公益通報委員会の一員だったようですから。

兵庫県の公益通報委員会は、形だけでほとんど機能していないというのが実態だったのではないでしょうか」

そして5月7日、県は独自の内部調査のみで、「核心部分が真実ではない」として、元県民局長を懲戒処分にしてしまう。

「Yさんは、4月4日に内部告発委員会に通報したわけですが、5月7日の時点では、まだ通報した内容の調査結果も出ていないわけです。結果が出る前に処分するというのは、通報者に対する報復であり、正当な公益通報者に対して、違法な制裁処分を下しているということになります」

つまり、これまでの斎藤県知事や片山前副知事らの行為は、公益通報保護法違反にあたる可能性が極めて高いのだ。

■“命がけ”では日本の公益通報が減ってしまう

しかし問題は、違法であっても「お咎めなし」となってしまうこと。光前弁護士は、その理由を、こう続ける。

「3年前の公益通報者保護法の改正で、通報を受けた担当者が通報者の氏名などを漏えいした場合のみ罰則規定が設けられました。しかし、この法律は理念を謳っているだけなので、そのほかの罰則規定はありません。

以前から『罰則を設けるべきだ』という声もありますが、そうなっていないので、現状では通報者や家族が損害賠償の訴えをおこすしかないのです」

とはいえ、森友学園の国有地を巡る財務省の公文書改ざん問題で、自死した赤木俊夫さんの妻の事例を見てもわかるように、国や県などの行政機関を相手に裁判を起こす家族の心労は並大抵ではない。

光前弁護士は、「乱用につながるおそれがあるので罰則を設けることが望ましいわけではない」としたうえで、改善の必要性を次のように指摘する。

「今回のように、組織の上層部が絡む公益通報の場合、内部の組織に通報してももみ消されてしまうおそれがあります。そのため、消費者庁は違法行為があったかどうかについて判断する第三者機関を設けなさい、と以前から警鐘を鳴らしていました。

民間企業、とくに大手ではずいぶん設置が進みましたが、行政機関は非常に遅れている。まず、ここの改善を急ぐべきでしょう」

同時に「国民の意識を変えていくことも大切だ」と光前弁護士。

「日本では、公益通報者がバッシングされる傾向にありますが、欧米ではヒーローです。

とくにアメリカでは、通報者によって国や自治体が利益を受けたような場合には、かなりの報奨金が支給されます。日本のように通報は命がけ、ということになれば、ますます公益通報が減ってしまうでしょう」

今後、“命がけ”で公益通報しなくてもすむように、すみやかに真実を究明し、改善する必要があるだろう。

(出典 news.nicovideo.jp)

𠮷川晃司のコメント

この記事に対して厳しいコメントを述べると、斎藤知事の対応は極めて問題があるとしか言いようがありません。

まず、斎藤知事が部下2人の自死を受けているにもかかわらず、「しっかり県政を進めていきたい」と繰り返すだけで、具体的な反省や責任の言及がない点は無責任極まりない姿勢です。これはリーダーとしての資質を著しく欠いていると言えるでしょう。部下が命を落とす事態にまで発展しているにもかかわらず、自らの行動を省みることなく、形式的な言葉で事態を収束させようとする姿勢は許されるものではありません。

さらに、公益通報者保護法の理解不足を露呈し、Yさんに対する対応が明らかに不適切であったことも問題です。通報者の保護が全くなされておらず、結果として彼が自ら命を絶つに至ったことは、知事のリーダーシップと組織運営に重大な欠陥があることを示しています。公益通報が組織内で握り潰され、告発者が追い詰められるような状況が許される社会では、真実が闇に葬られ、悪事が横行することは避けられません。

このような重大な問題に直面しているにもかかわらず、斎藤知事や兵庫県の対応が適切な反省や改善の意図を見せていないことは、県政の信頼を著しく損なうものであり、今後の責任追及と改善が強く求められるべきです。結局のところ、斎藤知事は自らの立場を守ることに終始し、真に必要な変革や責任を避けようとしているように見えます。このような姿勢は到底容認できるものではなく、彼のリーダーシップの在り方そのものが今問われるべきです。

Twitterでフォローしよう

おすすめの記事